童心失せぬ

多趣味女の好きなもの詰め

ザリガニの鳴くところ/ネタバレ感想

 カイアは彼のために笑った。以前なら絶対にしなかったことだ。誰かと一緒にいるために、カイアはまたひとつ、自分の一部を手放したのだ。

ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で、族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ──。

 

抱きしめたいな、カイア;;;;

人間の孤独、誰かと繋がりたいという感情をすごく丁寧に紡いでいて、読んでいて何度も胸が寂しさでぎゅっとなる。孤独をこんなにも表現することが出来るのか。人と繋がるために自分を殺して笑ったことがある人、誰かを待って窓から外を見続けたり、耳を澄ませたことがある人にはぜひ読んで、カイアの孤独に寄り添ってほしい。もうみんなでカイアの事を抱きしめに行こうぜ;;;

〝辛いのは、幾度もの拒絶によって自分の人生が決められてきたという現実なのだ〟、「一人で人生を生きなければいけない。わかっていたはずじゃない。人は去っていくものだなんて、ずっと前から知っていたはずよ」…はあ、読むだけでこんなに痛い。こんな風に思ってしまうカイアの心の傷を思うと涙が出てくる、一緒に泣きたい。それでも人と繋がりを求めてしまうカイアに、すごく人間を感じる。人は誰かと繋がりたいと自然に思う生き物なんだよな。

そして、そんなに繋がりを求めているカイアが人を殺すまでに憎むことだってある。自分を蔑ろに扱われるっていうのは、本当に本当に辛いことなんだよ。

 

ミステリー小説だと思っていたんだけど、その要素はおまけ程度なのかな。複雑なトリックも特になく、こじつけでカイアを犯人に仕立てて、流石に無理がある!と終ったけど、実際はその 無理がある方法で必死にカイアが殺したっていう…中々珍しいオチでびっくりしたけど、まあ本編はここじゃないんだなという事で。

 

それよりもヒューマン小説としてとても面白い。カイアという人間、カイアが住んでいる湿地がとても好きになった。湿地や沼地に馴染みがなかったので、調べながら頭の中でたくさん想像しながら、自分も湿地に入り込んでいるような気持になれて、すごい体験を出来た気がする。この小説は、読む絵画のよう。こんなにどっぷり入り込めるんだ、すごい。

 

南アメリカの料理がたくさん出てきて、どれも食べてみたいなあと思っていたのだけど、特に食べたいのが、アライグマのボール。ビスケットのタネに、チョリソーとチェダーチーズを混ぜて焼いたもの、だって!!何それ美味しそう!!!自分のイメージではカリッと焼いた薄いビスケットだったけど、アメリカでいうビスケットって、ケンタッキーで売ってる立体的なパンに近い方のビスケットかな?どっちでも美味しそう、そしてお酒のつまみに最高に良さそうなので、今度作ってみたい!

 

面白かった、カイアに出会えて、寂しいという感情とも自分なりに向き合えた。読んでよかったと思える本だった。叶うのであれば、カイアの住んでいる湿地でカイアを笑顔にしたい。また明日、と言って帰って、また翌日会いに行きたい。会いに行くよ。