童心失せぬ

多趣味女の好きなもの詰め

闇に香る嘘/感想

27年間兄だと信じていた男は何者なのか?

孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された村上和久は、兄の竜彦を頼る。しかし、移植どころか検査さえ拒絶する竜彦に疑念を抱く。目の前の男は実の兄なのか。27年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。驚愕の真相が待ち受ける江戸川乱歩賞受賞作

 

主人公が全盲のミステリー。文字だけで情報を得て、視界を想像している読者も主人公と同じ立場になったようで面白かった。全盲なので、犯人と何度対峙しても、相手が無言であれば誰だか分からないというのがまた新鮮。

もう孫もいるような独り身の老人が主人公で、性格も割と内向的なので、読んでる間、ずーっと空気が重い。闇に包まれたように自分自身も暗い気持ちになるけれど、その暗さ、不気味さ、不穏さがこの小説の魅力なんだろう。

 

視界の情報が全くないので、ある種 全編叙述トリックのようで、これはひっかけなのでは、ここは実は視界情報があればこうなのではないか、と考えながら読むのですごく頭が疲れた。ずっと回転。

ここまであれこれ考えながら読むと、最後のどんでん返しを迎えても面白くないのではないかとも思ったが、結末は、どうだ びっくりだろう!!という訳でもなく(人に寄るが)、ただただ物語として面白い終幕で良かった。ここまでずっと暗かったが、読了後は少し晴れ。

 

この小説の土台になる、中国残留日本人孤児問題。色々考えさせられる。色々と偏見を持った考え方をしてしまうが、読み終わった後に思うのは、偏見はいつか自分の首を絞めることになる という事。色んな知識を頭に入れて、柔和な考えが出来るようになりたいと思う。